サンプルホーム

人物でたどる鶴岡の歴史 2026

【本間勝喜氏略歴】
昭和37年 鶴岡南高校卒業
昭和41年 慶応義塾大学卒業
昭和49年 東京教育大学大学院退学
昭和61年 明治大学大学院修了、山梨県大月市立大月短期大学講師、羽黒高校講師を歴任。
現在、鶴岡市史編纂委員。

2026年2月1日号

【第158回 加茂湊の豪商大屋八郎治家(上)】

  加茂湊は庄内では、酒田湊に次ぐ海上交通の要衝であり、同湊は「かかり澗(ま)」といわれ、酒田湊を目指す船が強風を避け、順風を待ち、その間食糧や水を補給する目的で寄港したのである(日本歴史地名大系6『山形県の地名』)。
 現代の加茂港は漁港としての機能が主である。しかし、江戸時代には大小の海船や商人が出入りし、商港として大いに繁栄し、多くの商人が活躍したのであった。
 その加茂湊を代表する豪商といえば、秋野茂右衛門家のことがまず思い浮ぶ。
 三十数年前のことであるが、同家の文書で、表題は失念したが、金蔵を建造するため金子千数百両を費やしたことが記されたものを見せてもらい、一部解読したことを記憶している。千数百両の金子を費やして造られた金蔵に入れられる金子は何千両、何万両であったろうかと思う。
 江戸時代後半に、そんな秋野家に次ぐ加茂湊の豪商が大屋八郎治家であった。
 鶴岡市郷土資料館には、江戸時代庄内の豪商・富商を書き上げた分限番付が何点か所蔵されている。
 そのような分限番付はきちんと調査されたのではもちろんなく、あくまで当時の巷(ちまた)の評判や噂に基づくものであったとみられる。とはいえ、かなり実態を反映するものであった。
 分限番付のうち、もっとも古い寛政年間(一七八九ー一八〇一)の「荘内分限見立相撲」では、秋野茂右衛門が西方の大関であり、大屋八郎右衛門が同じく前頭六枚目であった。なお、鶴岡・酒田の両町の分が東方であり、加茂湊を含む郷方の分が西方に記載された。右の二家のほかに、長沢七郎右衛門は前頭三十五枚目であった。
 二十年ないし三十年後の文政八年(一八二五)の「鶴亀松宝来見立」という分限番付では、秋野は行司役とされ、別格の扱いであった。
 大屋八郎治は前頭五枚目であり、寛政年間のものに比べて一枚だけ上がっていた。しかも、番付の一番上段に名前があって、その前後に見られる商人の名前はまさに庄内を代表する豪商ばかりであった。なお、長沢長左衛門は十六枚目であり、かなり上昇していた。ほかに秋野由兵衛も二十枚目に出ている。
 わずか二点の分限番付の紹介であるが、大屋家は加茂湊では秋野茂右衛門家に次ぐ豪商とみなされていたことは明らかである。
 『加茂港史』によれば、大屋八郎治家は問屋系商人地主であったとする。おそらく廻船問屋として活動し、それで得た利益を田地などの取り入れに向けたものであろう。大屋家の先祖は北陸の越前(福井県)住の前田八郎左衛門であり、元和年間(一六一五ー二四)の頃に加茂湊に移住してきた。その際、前田姓を大屋姓に改めたという。
 問丸(といまる)を業として数代を経過したとする。
 問屋とは、中世に主に港津に居住し、渡し船や商人宿を営み、年貢物や商品の中継、保管、輸送、販売に携わった業者のことであった(『岩波日本史辞典』)。
 大屋家が加茂湊に来住した時、すでに江戸時代の元和年間に入っており、しかもその後数代に及んで中世的な問丸を業としたというのは少々疑問が残る。問丸は倉庫業と商業が未分離の状態であった。商人宿を営んだり、年貢物や商品の保管は基本的に営んでいなかったし、営んだとしても付随的にであろう。
 大屋家はやはり廻船問屋としての営業が主であったと思われる。この場合の廻船問屋というのは、沿岸航路にあって、旅客・貨物輸送にあたる廻船と荷送人の間にあって積荷を斡旋する商人のことであった(同前書)。
 ところで大屋家では、十八世紀前半の享保・元文年間(一七一五ー四一)に活動した当主を大屋家の初代八郎治とみなしていた。つまり十七世紀前半の元和年間から十八世紀前半の享保・元文年間まで一〇〇年ほどのことがほとんど明らかでないのである。
 おそらく、その間は豪商などとみなされるような存在ではなく、小商人などとして活動し、暮らしを立てていたのではなかろうか。
 そして、少しずつ商いを広げ、十八世紀に入ると、他領の商人とも商売を行うようになって、十八世紀中頃になると廻船問屋として加茂湊を代表する商人まで成長してきたものとみられる。
 しかも、藩役所より富裕であると目をつけられ、御用金、才覚金などの名目でしばしば米金を提供させられるようになった。同家の文書(郷土資料館)では、天保五年(一八三四)十月に一代大庄屋格に遇されており、それまでにすでにかなりの米金を提供してきた結果であったことは明白である。

応募・申し込み

鶴岡タイムス社

〒997-0042
山形県鶴岡市新形町16-40
TEL 0235-28-1101
Fax 0235-28-2449
受付:午前9時~午後6時