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エッセイ「学校図書館充実の署名ご協力に感謝」

2023年2月1日号 子どもの読書を支える会 代表  戸村 雅子さん

特別エッセイ「羽越線を守れ」

2023年1月1日号 作家 佐藤 賢 一さん

寄稿バックナンバー
・2023年寄稿 ・2022年寄稿 ・2021年寄稿 ・2020年寄稿 ・2019年寄稿 ・2018年寄稿

2023年5月1日号 「学校図書館充実の署名ご協力に感謝」
 子どもの読書を支える会 代表  戸村 雅子さん

 公教育において、地域格差や学校規模の大小によって差別をしたり、格差をつけたりすることはあってはならないことです。
 具体的には、鶴岡市合併以前の旧町村の図書職員は、給食や事務と兼務で働く時間も短いことから、図書の仕事ができない、子どもたちと接する時間がないという問題を抱えてきました。一方、旧市内の大規模校では、専門の資格を持った司書がフルタイムで働き、先生方の授業の補助も万全です。
 そこで、子どもの学びや読書の機会に影響を与えるこのような格差を解消するために、昨年「子どもの読書を支える会」が中心となり、兼務をしている図書職員の働く時間を大規模校並みにしてほしいという署名運動をしました。
 これは多くの市民の支持を得て5521筆という結果になって現れ、市長と市教育長に届けることができました。
 子どもたちのために署名に協力して下さった市民の皆さま、そして鶴岡市の未来のために学校図書館の充実を目指して大きく舵を切った市と市教育委員会に心より感謝申し上げます。
 現場で働いている方から次のようなメールが届きました。「私たちの働く時間延長の予算が通り、4月から施行されたことは本当にうれしいです。私たちも仕事の充実を目指していかなければ」と喜びを語りながら、現場の不安も伝えています。「この度の制度の改善の主旨が学校現場ではまだ十分理解されていないような面がうかがえます」
 学校図書館にともった灯は、今は小さいかもしれません。しかし、それがやがて子どもたち一人ひとりの感性や知性に飛び火して、大きな光り輝く炎となった時、鶴岡の未来は変わるだろうと思っています。本当にありがとうございました。

2023年1月1日号 「羽越線を守れ」
 作家 佐藤 賢 一さん

  昨夏、それに昨秋、ショッキングな報道があった。JR東日本が管内の赤字路線を発表、そこで羽越線の村上=鶴岡区間が、七月発表の二〇一九年度収支で四十九億九百万円の赤字、十一月発表の二〇二一年度収支で四十九億九千八百万円の赤字となり、いずれもワースト一位を記録したのだ。
 JR東日本が発表に踏みきったのは、コロナ禍で首都圏の旅客収入、つまりは通勤通学の満員電車で上げていた収益が減り、その黒字で地方の赤字を埋められなくなったからである。厳しい経営状況を明かしながら、地元にとって持続可能な交通体系について建設的な議論をしたい、存続策やバスへの転換などを議論する協議会を設立したいと、三年以内に路線自治体に働きかけるというのである。鶴岡も、その対象となる公算が高い。
 鶴岡で鉄道の議論といえば、これまでは専ら高速化、つまりは新幹線だった。山形県からも「フル規格での羽越新幹線を」と打ち上げられ、期待に胸膨らませてきたが、もはや虚しい夢想と考えざるをえない。日本の国情が劇的に改善するのでないならば、もう新幹線の新規開通は難しいだろう。少なくとも十年、二十年の単位では無理だ。何とかと祈るような思いでいたものが、数年のコロナ禍で息の根を止められたのだ。
 すでに赤字路線として、切り捨てさえ論じられる事態である。もはや新しいものを得る時代でなく、今あるものを必死に守らなければならない時代になった。市民ひとりひとりが心がけて利用を考えなければ、羽越線の未来は何ひとつ約束されなくなったのだ。
 羽越線そのものが廃線になるとは思わない。鶴岡=酒田の区間は赤字になっていないし、でなくても貨物列車は走るからだ。それでも本数が減らされたり、廃止の運行が出たりはするだろう。酒田=羽後本庄も赤字路線(管内ワースト三位)であることを考えれば、概して県境を越える便は厳しいことを、今から覚悟しておくべきかもしれない。
 県境を越えるといえば、特急いなほ号である。上越新幹線に接続して、東京まで往復する手段として、是が非でも守らなければならないが、それだけの価値も付与されたと私は考えている。新潟駅で新幹線ホームと対面乗り換えができるようになって、利便性が格段に増したからである。新しいものが望めなくなる前に、滑りこみで何とか完成した格好であれば、ホッと胸を撫で下ろす思いだが、それでも村上=鶴岡はワースト一位の赤字区間なのだ。それが全てではないが、なお特急いなほ号が苦戦していることは事実だ。いうまでもなく、天気に左右されて、遅延運休が多いからだ。脱線事故このかた、運行基準が厳しくなったこともあろうが、それにしても遅れるし、よく止まる。わかっているのに、未だ抜本的な対策は取られないのだ。
 私は特急いなほ号を鶴岡発着、つまりは鶴岡始発、鶴岡終点にすればよいと思う。現在、通常の始発終点は、秋田(上下とも日に二本)ないしは酒田(上下とも日に五本)である。しかし、もう新幹線の新規開通はない。東京への行き来は既存の新幹線に頼らなければならない。そうすると、秋田県南地域は、いったん北上して秋田発着の秋田新幹線を使うだろう。北庄内地域の酒田市や遊佐町、さらに庄内町などは、疑いもなく新庄発着の山形新幹線だ。こちらで鉄道高速化といえば、一貫して山形新幹線の酒田延伸だった。今後の運動は定かでないが、現状すでに乗客は流れている。二〇二一年の酒田版JR時刻表(酒田駅や鶴岡駅で無料で配られるもの)を開けば、わかる。陸羽西線・山形新幹線の接続が、特急いなほ号・上越新幹線の接続と並んで、大きく特記されているほどなのだ。
 国道工事で陸羽西線が止まる去年、それに今年、来年くらいまでは特急いなほ号を使うしかないが、そのあとはまた離れるだろう。陸羽西線も赤字路線であり、営業係数(百円の収益のためにいくら使うか)では二千四百八十三円と、かえって羽越線の赤字区間(村上=鶴岡で千七百七十二円、酒田=羽後本荘で千九百九十七円、いずれも二〇二一年度)より悪い。貨物が走るわけでなく、こちらは廃線もありうる。いや、許さないと思うなら、酒田市や遊佐町、庄内町は再開一番に陸羽西線を使い、山形新幹線に乗らなければならないのだ。
 特急いなほ号に乗るのは、二〇二一年までも、また二〇二五年からも、ほぼ鶴岡市だけということである。あとは三川町と、新潟下越地域の自治体くらいだ。それなのに、特急いなほ号が秋田ないしは酒田までの乗客をみこんで、八両編成なのはおかしい。二〇二五年から鶴岡発着にするなら、もう四両程度でいい。それで運行経費は減り、営業係数は上がり、赤字が減る。
 鶴岡発着なら天気に左右されるリスクも少なくなる。海端を走る秋田県南、酒田の松林をすぎるや、とたん暴風地帯になる庄内中央部—それらは関係なくなるからだ。もちろん鶴岡から村上にかけても危険地帯はあるが、区間が短くなれば、そこに集中的な対策を施すこともできる。そうやって大胆に変えていかなければ、羽越線も、特急いなほ号も、いよいよもって本当に……。